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農村と都市をむすぶ誌
食料・農業・農村基本計画に対する見解

Ⅰ 基本計画のポイント

政府は3月30日、食料・農業・農村政策審議会の答申どおり、今後10年程度を見通して定める「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。基本計画については、従来の農業基本法の制定から約40年を経て1999年に策定された「食料・農業・農村基本法」において、情勢の変化、施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに見直すとされている。
 今回の基本計画は、見直しの検討途中で政権交代が行われるという政治情勢下で進められたことから、財政面の調整が十分とは言えないが、これまでの自民党農政の大転換を図るものとなっている。
 その政策の柱は、2020年までに供給熱量ベースでの自給率50%の達成を目指すため、①意欲あるすべての農業者が将来にわたって農業を継続し、経営発展に取り組むことができる環境を整備するため、戸別所得補償制度を導入する、②「品質」、「安全・安心」といった消費者ニーズに適った生産体制に転換、③6次産業化による活力ある農山漁村の再生、を掲げている。
 また、まえがきで「これまでの農政の反省に立ち、今こそ食料・農業・農村政策を日本の国家戦略の一つとして位置付け、大幅な政策の転換を図らなければならない。国民全体で農業・農村を支える社会の創造を目指す」とするなど、今後の食料・農業・農村政策を展開するにあたっての基本理念を強く書き込んでいることが特徴である。

Ⅱ  個別課題

1.食料自給率目標

食料自給率目標の考え方では、世界の人口の増加、中国やインド等での所得水準の向上、バイオ燃料の拡大等により農産物の需要が増大する一方、地球温暖化等による水資源の不足や砂漠化の進行、世界の穀物単収の伸びの鈍化等による農産物の供給面での懸念が生じている。このため、今後とも、世界穀物等の需給は逼迫した状態が継続し、食料価格は高い水準で、かつ、上昇傾向で推移するとも予測されている。
 こういった情勢を踏まえ、供給熱量ベースで2008年度の41%を50%まで引き上げる。生産額ベースで65%を70%まで引き上げる、としている。
 食料自給率向上に向けた取組では、生産及び消費の両面において重点的に取り組むべき事項及び克服すべき課題を明確化し、国民の理解を促進するとして、生産面で、①二毛作により小麦の作付を飛躍的に拡大する、②米粉用米・飼料用米、大豆等の作付の大幅拡大、③技術開発とその普及を通じた単収・品質の向上、④耕作放棄地の解消等を通じた農地の確保、を上げている。消費面では消費者や食品産業事業者に国産農産物が選択されるような環境を形成することが必要であるとして、①朝食欠食の改善による米の消費拡大、②健康志向の高まりを受けた脂質の摂取抑制、国産大豆の使用割合の大幅な引き上げ、等に取り組むとしている。
 また、このために国内外の食料事情、農業の多面的機能について、国民に分かりやすく情報を提供し、国民の理解を得ることが前提であるともしている。
 これまでの政策でも、引き上げ目標を掲げて様々な対策が講じられてきたが、これらの施策が結実し自給率が改善されることはなく、40%前後で長年低迷を続けてきた。本基本計画の中では、現状を踏まえての対応方向が示されている。自給率引き上げのためにその道筋を明確に示し、必要な各施策の効果が発揮される取組の具体化を急ぐべきである。

2.食料の安定供給の確保

食料の安定供給の確保に関する施策では、近年の食をめぐる様々な問題が生じている中で、安全な食料を安定供給し、国民が安心を実感できる食生活の実現に向けた政策を確立する必要があるとし、「後始末より未然防止」の考え方を基本として、食品供給行程管理(トレーサビリティ、GAP、HACCP)に正面から取り組む。具体的には、①GAPは、高度な取組内容を持つ共通基盤づくりを推進、②HACCPは、中小規模層でも低コストで導入できる手法を構築・普及、③トレーサビリティは米穀等以外の飲食料品に対する義務付け等を検討、④輸入食品の検査・監視体制を強化、⑤加工食品等における原材料の原産地表示の義務付け等を拡大、するとしている。
 その他、①国産農産物を軸とした食と農の結び付きの強化、②食品産業の持続的な発展と新たな展開、③総合的な食料安全保障の確立、④輸入国としての食料安定供給の重要性を踏まえた国際交渉への対応、などの取組が示されている。
 BSE問題以降、牛ミンチ偽装事件や事故米問題など食に関する多くの問題が発生した。消費者の信頼を回復し、食の安全を確保するためには、トレーサビリティや表示をはじめとする、食品の生産から供給までの管理システムの構築が必要不可欠である。そのためにも財政に裏付けられた具体的施策の展開やそれを推進する体制の整備、食品安全庁の早期設置についても検討を進めるべきである。

3.農業の持続的発展

 旧基本計画との大きな転換の一つが、規模拡大・効率化路線による大規模経営への施策集中から、意欲あるすべての農業者を支援の対象としていることである。これは、食料自給率の向上や多面的機能の維持を図るためには、兼業農家や小規模経営の農業者の経営継続も必要であるとしたことからである。このための重要な施策として、戸別所得補償制度を導入するとしている。
 また、生産・加工・販売の一体化、産地の戦略的取組の推進、輸出促進、生産資材費の縮減等を体系的に実施することにより、農業・農村の6次産業化を推進し所得拡大を図る。地域農業の担い手の中心となる家族農業経営については、規模拡大や経営の多角化等の経営改善を促す。優良農地の確保と有効利用の促進、農業生産力強化に向けた農業生産基盤整備の抜本見直し、などに取り組んで農業者が希望を持って農業に従事し、収益を上げることができる環境を整えていくことが必要不可欠としている。
 農業の持続的な経営発展を図るためには、安定した所得の確保が図られることは絶対条件となる。そのためにも戸別所得補償制度の2011年度からの本格実施に向けた財源確保や米以外の品目への拡充、農業・農村の6次産業化などの各政策が十分機能し農村全体が活性化することが重要である。また、農地の十分な確保と合わせて、農地の保全管理や農業用水施設等の修理・更新など農業生産基盤の持続的な整備等も欠かすことはできない。
 加えて、新たな政策の基礎となる統計データの整備も重要となる。

4.農村の振興に関する施策

農業・農村の持つ国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承などの多面的機能は、国民全体が享受するものであることから、農業・農村を支える取組は、国民全体に安心をもたらす。この認識の下、農業・農村の6次産業化により農村経済の活性化を進め、地域が抱える不利な農業生産条件を補正し、生活条件の整備を含めた集落機能の維持と生態系や景観を含む農村環境の保全等を支援していくことが必要としている。
 このため、農業・農村の6次産業化をはじめとした、都市と農村の交流等、都市及びその周辺の地域における農業の振興、集落機能の維持と地域資源・環境の保全、農山漁村活性化ビジョンの策定、を掲げている。また、これらの取組の結果として、若者や子供も農山漁村に定住できる地域社会を構築するとしている。
 農山漁村の経済が活性化し、疲弊した集落機能を回復させることは、農業の多面的機能を維持することになる。また、これらの振興策により地域での雇用の場が創出することになれば、現在の日本の厳しい雇用状況の改善にも寄与する。示されている農村振興施策の構築が真に地域の活性化に繋がるよう求めなければならない。

5.食料・農業・農村に横断的に関係する施策

 技術・環境政策等の総合的な推進を図るために、革新的技術の開発や低炭素型産業構造への転換を実現する包括的な技術・環境戦略を策定し、研究開発から普及・産業化までの一貫支援、地球温暖化対策や生物多様性保全を含む地球環境問題への貢献、知的財産の保護・活用の取組を総合的・体系的に推進するとしている。
 これらの取組の成果が現れ、地球規模で大きな問題となっている温暖化などの環境問題に大きく貢献するよう、更なる取組の強化を求めていかなければならない。
 また、「農」を支える多様な連携軸の構築では、農業を取り巻く多様な分野の様々な関係者が、相互に協力し合い発展する結び付きの構築を促進するため、情報発信の強化や関係者のマッチングの充実、人材の確保、国民各層への理解、具体的行動の喚起等を推進するとしている。
 「農」を支える多くの関係者が安定して事業が進められ、さらに発展できる施策となることが求められる。

Ⅲ 全農林の考え方

今回の新たな基本計画の閣議決定により、今後の農業政策は大きく転換していくこととなるが、自給率を50%に引き上げるための各施策が融合し、十分な効果が発揮される具体的な取組がどう展開されるかが重要になる。そのためにも「農業や農村が有する多面的機能の恩恵は、すべての国民が享受している」ことへの国民的理解が不可欠である。その上で財政措置が十分図られ、掲げられた政策が着実に進められていく必要がある。

日本農業の現状は、「食料・農業・農村基本法」が施行されて以降も、農業所得の減少により持続的な農業経営は困難になり、後継者・担い手の不足はさらに深刻の度を増している。また、食料自給率も低迷を続け厳しい状況にある。このことは、農林水産行政にかかわる関係者全体で重く受けとめなければならない。
 こうした中での新たな基本計画では、これまでの農政の反省に立ち、「今こそ食料・農業・農村政策を日本の国家戦略の一つとして位置付け、大幅な政策の転換を図らなければならない。そのために、農業・農村の持つ多面的機能への国民理解を得る取組も行い、『国民全体で農業・農村を支える社会』の創造を目指す。また、農林漁業を活性化するだけでなく、地域での雇用と所得を確保し、若者や子供が希望を持って農山漁村に定住できる地域社会の再生を実現する」などとしている。
 これらの考えは、これまで全農林が中心となって進めてきた農林水産業再建運動の基本的理念と一にするものである。施策遂行のための財政面での課題もあるが、組合サイドとしても積極的に推進していかなければならないと考える。
 その上で、各施策の課題や問題点について、指摘すべきものは指摘し、新たな農林水産政策が関係者はもとより、国民生活全体にとって有益なものとなるように求めていかなければならない。
 また、政策の変更は、私たち農林水産省や所管独立行政法人の事務・事業の有り様にも直結し、そこで働く組合員の業務にも大きな影響を与えるものとなる。そのためにも政権が変わっても主要な政策が揺らぐことが無いよう、農業政策は国民全体のものであるとの共通認識が図られる取組も重要となってくる。
 全農林は、国民生活の安定と地域社会の再生に貢献していくために、新たな食料・農業・農村基本計画に掲げられた目標の達成を強く求めていく。そのため、政府や農林水産省に対して、各級機関の果たすべき役割、事務・事業の明確化を求めるとともに、農林水産業に関わる労働者としての社会的責任を果たすこととする。 
 

 2010年4月 
全農林労働組合


2010年04月21日 | 全農林の活動



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